科学は嘘をつかない
女優 沢口靖子さんが 長年に渡り主演を務めた ドラマ 『科捜研の女』の名台詞です。
小説家 岩井圭也さんの 『最後の鑑定人』では
「 科学は嘘をつかない 嘘をつくのは、いつだって人間です」
という決め台詞があります。
そして、ほんものの科学者。
大気大循環を専門とする気象学者で、筑波大学教授の田中博さんは、
「科学は噓をつかない。でも科学者は噓をつく」
との言葉を残しています。
科学が政治によってねじ曲げられる実際の現場を見てきたからです。
本日は、 科学は嘘をつかない ある製薬会社の「誠実な敗北」が教えてくれること
と題して、科学とは、どうあるべきかを
読者の皆様と考えていきたいと思います。
最近、ニュースや SNS などで
「糖尿病の薬が認知症に効くらしい」
という話を耳にすることはありませんか?
「既存の薬が別の病気にも効く」というニュースは、
私たちに大きな希望を与えてくれます。
しかし、最新の科学の現場からは、非常に重要な、
そしてある意味で「気高い」報告が届きました。
今日は、デンマークの製薬大手ノボ ノルディスク社が発表した、
ある治験結果についてお話ししたいと思います。
「期待」にNOを突きつけたのは 自らの研究でした
ノボ ノルディスク社は、世界中で大ヒットしている
糖尿病・肥満症治療薬「セマグルチド(商品名:オゼンピック等)」を開発した企業です。

画像: Wikipedia より
この薬がアルツハイマー病の進行を抑えるのではないかと期待され、
大規模な臨床試験(EVOKE試験)が行われてきました。
しかし、2025年11月、同社は驚くべき発表を行いました。
「セマグルチドは、アルツハイマー病の進行を抑制する効果を証明できなかった」
期待が大きかっただけに、この発表直後、同社の株価は一時大きく下落しました。
企業としては、自社の価値を下げるような情報はできるだけ伏せたい、
あるいは良いデータの断片だけを強調したいという誘惑に駆られるはずです。
科学の誠実さと、企業の誇り
それでも、彼らはありのままの真実を公表しました。
なぜなら「科学は嘘をつかない」からです。
治験の結果、一部のバイオマーカー(体内の指標)には改善が見られたものの、
肝心の「認知機能の低下を抑える」という臨床的な効果は認められませんでした。
ノボ社は、この結果を真摯に受け止め、
多額の投資を続けていた試験の中止を決定したのです。
自社の利益や株価よりも、
「何が真実で、何が患者さんのためになるのか」
という科学的エビデンスを優先したこの姿勢は、
本来の医学・薬学があるべき姿ではないでしょうか。
私たちが情報をどう受け取るべきか
「糖尿病の薬が効かなかった」という結果は、
一見すると悲しいニュースに思えます。
しかし、以下の2つの意味で、非常に価値のある一歩だと言えます。
「効かない」ことが分かるのも、立派な科学の前進である
(無駄な期待や、根拠のない治療に時間と費用を費やすことを防げます)
真実を語る企業の情報をこそ、私たちは信頼できる
(不都合な真実を隠さない姿勢は、将来「効く」というデータが出た時の
信頼の裏付けになります)
巷には「○○が認知症に効く!」といった威勢のいい言葉が溢れています。
しかし、本当に大切なのは、厳しい結果であっても隠さずに共有する誠実さです。
ノボ ノルディスク社が見せた「真実を伝える勇気」に敬意を表しつつ、
私たちはこれからも、冷静に、そして確かな科学的根拠に基づいた情報を
皆様にお届けしてまいります。
認知症治療薬の現在地
糖尿病薬によるアプローチは厳しい結果となりましたが、
認知症研究の世界では、特に注目されている3つのアプローチをご紹介します。
1. 「原因物質」を直接取り除く:抗アミロイド抗体薬
現在、最も主流となっているのが、脳内に溜まったゴミ(アミロイドβ)を直接除去する薬です。
レカネマブ(レケンビ) 承認済み・普及中
日本でもすでに使用されています。初期段階での進行を約27%抑制します。
ドナネマブ(ケサンla) 承認済み
2024年に承認。レカネマブと同様、早期アルツハイマー病の進行を遅らせる効果があります。
2. 「タウタンパク質」へのアプローチ
アミロイドβが「火種」だとしたら、脳細胞を直接壊す「炎」にあたるのが「タウ」というタンパク質です。
現在の状況: 多くの製薬会社が、このタウが広がるのを防ぐ薬を開発中です。
アミロイドβを除去する薬と「セット」で使うことで、
より高い効果を発揮するのではないかと期待されています。
3. 脳の「ゴミ出し機能」を改善するアプローチ
ノボ社の薬(GLP-1受容体作動薬)は、脳の炎症を抑えることを狙っていましたが、
他にも「脳のリンパ系(グリンパティック系)」を活性化させて、
自然にゴミを排出させる研究が進んでいます。
多角的なアプローチの重要性
認知症は一つの原因だけで起こるわけではありません。
糖尿病薬の治験結果が示したのは、
「単一のメカニズム(血糖調節や抗炎症)だけでは不十分な場合がある」ということです。
今後は、複数の薬を組み合わせる「コンビネーション治療」が鍵になると言われています。
私たちが今、できること
科学が進化するスピードは速まっています。
ノボ社のような誠実な企業がデータを積み上げているおかげで、
「どのルートが正解で、どのルートが間違いか」が年々明確になっています。
新薬のニュースを見る際は、以下の3つの視点を持つことをお勧めします。
対象は誰か?(初期の人向けか、予防向けか)
どの段階の治験か?(最終段階の「フェーズ3」の結果が最も信頼できます)
副作用のリスクは?(効果とリスクのバランスが重要です)
不確かな情報に惑わされず、科学の歩みを正しく理解することが、最善のケアへの近道です。
【Q & A コーナー】
よくある疑問にズバリお答えします
今回の糖尿病薬(セマグルチド)の治験結果を受けて、
皆様から寄せられそうな疑問を Q &A 形式でまとめました。
Q1. 「糖尿病の人は認知症になりにくい」という話を聞いたことがありますが、
あれは嘘だったのでしょうか?
A1. 嘘ではありません。しかし、解釈には注意が必要です。
統計的に「糖尿病を適切に治療している人は、そうでない人に比べて認知症の発症リスクが低い」
というデータは確かに存在します。
しかし、今回の治験で分かったのは
「すでにアルツハイマー病を発症してしまった人に対して、
後から糖尿病薬を使っても、進行を止める決定打にはならなかった」
ということです。
「予防」としての効果と「治療」としての効果は、
科学的には全く別の問題として捉える必要があります。
Q2. 治験が失敗したのに、なぜノボ・ノルディスク社を
「称える」必要があるのですか?
A2. 「失敗を隠さないこと」が、次なる治療への最短距離だからです。
医学の世界では、都合の悪い結果を公表しない
「出版バイアス」が問題になることがあります。
もし ノボ社が沈黙していたら、世界中の他の研究者が
「まだ可能性がある」と信じて、
無駄な研究に何年も費やしてしまったかもしれません。
彼らが潔く 「この道は違った」 と示したことは、
世界中の研究資源を次の「正解」へ集中させるための、大きな貢献なのです。
Q3. 今、糖尿病の薬を認知症予防のために個人輸入などで飲むのは危険ですか?
A3. 絶対におやめください。
今回の治験結果が示す通り、認知機能への明確なメリットは証明されていません。
一方で、糖尿病薬には低血糖や消化器系の副作用のリスクがあります。
科学的に「効果がない」と判定されたものに、
副作用のリスクを冒してまで頼る必要はありません。
今は、承認されている治療薬や、
確立された生活習慣の改善(食事や運動)に注力するのが最も賢明な選択です。
Q4. 科学的に「正しい情報」を見分けるコツはありますか?
A4. 「誰が、何のために発信しているか」を確認しましょう。
「これさえ飲めば治る!」といった極端な表現や、
特定のサプリメント販売に誘導する情報は注意が必要です。
今回のノボ社のように、自社に不利益な情報であっても、
客観的なデータ(治験結果)に基づいて発信している情報こそ、信頼に値します。
私たちも、常に「エビデンス(科学的根拠)」に基づいた情報をお届けできるよう努めてまいります。
編集後記
科学の道は「失敗」の積み重ねです。
今回の結果を受けて、研究者たちはすでに
「なぜ効かなかったのか」
「予防の段階なら効果があるのではないか」
という次のステップへ進んでいます。
一つの扉が閉まったことは、次の正しい扉を開くためのヒントになる。
そう信じて、最新の動向を見守っていきましょう。
また、「科学は嘘をつかない」からこそ、
私たちは新しい発見に一喜一憂しすぎず、冷静に向き合うことができます。
科学のバトンがつながっていく様子を、これからも追い続けていきましょう。
皆様の声を募集しています
今回のニュースを読んで、感じたことや疑問に思ったことはありませんか?
「もっとこういう話が聞きたい」
「この用語がわからない」など、
どんな小さなことでも構いません。
皆様と一緒に、正しい知識を積み上げていきたいと考えています。
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