〇 アルツハイマー病 新治療薬 「レカネマブ」 患者への投与始まる
日本の製薬大手「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同開発した 「レカネマブ」 (アメリカでの商品名「レケンビ®点滴静注」は、アルツハイマー病の原因物質を取り除き、進行を遅らせるための国内で初めての治療薬で、12月から保険適用となりました。
中医協=中央社会保険医療協議会は、12月20日に、薬価を ▼200mg2mL 1瓶:4万5777円 ▼500mg5mL 1瓶:11万4443円—と決定し、薬価基準に収載(=保険適用)されました。
患者1人当たりの薬剤費は 年間 約298万円となります。(年間約298万円とは、体重が50kgの人の場合)
都内にある認知症の専門外来がある病院では、12月25日から患者への投与を開始しました。
この薬の対象となるのは、アルツハイマー病で認知症を発症する前の「軽度認知障害」や早期の認知症と診断された人です。
生活に支障をきたすほどに重度と認定された患者や、家族が介護に悩むほどに重度の患者には対応できません。
また、副作用が起きていないかなどを定期的に確認する必要があることから、投与できるのは専門的な検査などが受けられる医療機関に限られています。
つまり、現状では、限られた医療機関のみの独占的な治療薬と言わざるを得ない状況です。
レカネマブは点滴で投与する薬です。
一度治療を始めると患者は2週間に1度、原則1年半の間、点滴を受けることになります。
12月25日当日、投与を受けた女性は
「ようやく薬が使えてほっとしています。今の状態をキープして、今までどおりの生活を続けたい」
と話していました。
この薬を使用できるのは認知症を発症する前の「軽度認知障害」の人や、アルツハイマー病の発症後、早い段階の人で、年間で最大およそ3万2000人の使用が見込まれています。
〇 「レカネマブ」 投与 の注意点
① 薬の投与対象患者が限定
上記の通り、対象者は、認知症発症以前の軽度認知障害や、早期認知症の患者です。
認知症の原因となる病気にはさまざまな種類がありますが、レカネマブが使えるのは「アルツハイマー病」の患者で、脳に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質がたまっていることが確認できた人に限られます。
また、認知症は、軽いものから、
▽認知症と診断される前の「軽度認知障害」
▽軽度の認知症
▽中等度の認知症
▽重度の認知症と進行して認知機能が低下していきますが、
今回、薬の投与対象となるのはこのうち、「軽度認知障害」と「軽度の認知症」の人だけです。
認知症の専門医によりますと、レカネマブの投与対象となる患者は認知症患者全体の1割未満とみられるということです。
② 副作用
製薬会社の治験の結果によりますと、およそ10人に1人の割合で以下の副作用が認められます。
▽脳がむくんだ状態になった
▽脳内でわずかな出血が起きる副作用が確認された
▽中には、より危険性の高い脳出血が起きた人も
上記のような副作用に注意が必要です。
③ 通院の負担
レカネマブは点滴で投与する薬で、一度治療を始めると患者は2週間に1度、原則1年半の間、点滴を受けることになります。
④ 医療機関が限定
副作用を早く見つけるため、脳の画像診断などの検査ができる医療機関で治療が行われることになっています。そのため、対応できる医療機関は限られます。
⑤ 認知症新薬 自己負担14万円の差額は誰が負担するのか?
患者1人当たりの薬剤費(通常は500mLを2週間に一度、26回使用)は 年間 約298万円ですが、患者の自己負担額は年齢や所得に応じて1割から3割となるため、実際は、年間29万円から89万円程度になります。
また、医療費が高額となった場合の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」の対象となるため、70歳以上の一般所得層といわれる人の場合、年収156万~約370万円、住民税非課税世帯を除くの場合、自己負担が年間14万4000円となる見通しです。
その差額は、誰が負担するのか?
それは、若い世代、現役世代の人々が働いた税金(社会保険料)で補填することになります。
「298万円の薬を14万4千円の自己負担で使える」ということは、差額の283,6万円は薬を使わない誰かが負担することになります。
「アルツハイマーの進行を27%遅らせるが治らない」
「要介護期間が延びるだけ」
「高齢者の少しの長生きのために、若者の1年間の稼ぎ丸々投じる勢い」
「社会保険料アップは不可避、現役世代は死にますね」
などの声が、若い人を中心に医師・非医師を問わず歓迎コメントはほとんど見当たりません。
画期的な新薬といわれているにもかかわらず・・・です。
今までの日本の社会保障政策を考えると、今後も現役世代の社会保障費増で帳尻を合わせる可能性が大きいと予測されます。
SNS等で発信される現役世代の反発は当然の結果でしょう。
2023年度の社会保障費(医療+年金+福祉)総額は厚労省推計で約134兆円とされています。
レカネマブが投与される患者数を、▼初年度:400人▼2年度目:7000人▼3年度目:1万4000人▼4年度目:2万3000人▼5年度目:2万6000人▼6年度目:2万9000人▼7年度目以降:各年度3万2000人―と推計しています。
400人で 11億3440万円
7000人で 198億5200万円
1万4000人で 397億400万円
2万3000人で 652億2800万円
2万6000人で 774億8000万円
2万9000人で 864億2000万円
3万2000人で953億6000万円
さらにレカネマブの副作用として10%以上に脳出血や脳浮腫が報告されているため、定期的なMRI検査が必要になり、これら検査等の医療費も公費負担でプラスされます。
レカネマブ単独で社会保障費の額をさらに増加させかねない治療薬です。
日本の社会保障制度を破綻させかねないリスクのある薬剤にも関わらず、現在のところ「新たなこれまでにない認知症薬」というマスメディアの発表ばかりが目に付きます。
保険適応された高額薬品に2020年に認可された薬価 約1.7億円の「ゾルゲンスマ」があります。
筋力の低下を引き起こす脊髄性筋萎縮症(SMA)を罹患りかんした2歳未満の乳幼児に投与する遺伝子治療薬です。
最重症とされるSMA I型は、乳児期に発症して寝たきりのまま短い生涯を終えるケースが多かったのですが、1回のゾルゲンスマ投与で歩けるようになった動画が配信され、「超高いけど効果ある」との評価をする人も多数います。
対象患者は日本国内では年間25人程度で公費負担増も50億程度と推計され、医療関係者の反発もありません。
「レカネマブ」 の使用は、65歳未満の若年性アルツハイマー病に限定すべき という医療関係者の声も多く出ています。
しかし、現在の保険制度では「年収800万円の50代サラリーマンにレカネマブ投与」となった場合には自己負担3割となり、「病気の進行を遅らせるメリットが大きい」世代ほど自己負担分も大きいという矛盾が生じます。
2022年度から体外受精など高額不妊治療が保険適応されましたが、これには「43歳未満」という明確な年齢制限が設けられています。
一方、2023年9月26日の武見敬三厚労大臣の記者会見では、「レカネマブの保険医療財政への影響」について質問されたものの、年齢制限や経済的インパクトについては言及されないままでした。