日本と 海外の介護事情 を比較してみましょう。
〇 海外の介護事情
日本は平均寿命が世界一です。
2022年に厚生労働省が発表したデータによると、2021年の日本人の平均寿命は
男性約 81歳、女性約 87歳です。
厚生労働省 平均寿命の国際比較
平均寿命の諸外国との比較は、国により作成基礎期間や作成方法が異なるため、厳密な比較は困難である。
しかし、現在入手している資料を用いて比較すると、表5のとおりである。
図4は、主な国の平均寿命の年次推移を図示したものである。
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https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-04.pdf
海外の介護事情 のうち、アジアについてご紹介します。
・アジアの介護事情
一方で東南アジアは・・・というと、2019年のデータ(男女平均値)で、
タイは 77.2歳、ベトナムは 75.4歳、カンボジアは 69.8歳です。
日本はアジアの国の中で圧倒的に長寿国だということがわかります。
この差は、医療の充実、食生活の充実、健康に対する国民意識など様々な要因が考えられます。
そして、どの時代まで戦争に関わっていたか?ということも重要です。
日本は1945年に終戦を迎えました。
ベトナムは1975年までベトナム戦争があり、その後1989年までカンボジアとの戦争が続きました。
さらにカンボジアは1993年まで内戦が続きました。
戦争が継続されている間は、国内政治も安定せず経済発展が遅れます。
そのため医療、食生活、健康への意識も停滞します。
国家が安定しているという背景があって、高齢化が進むといえましょう。
様々な国の施策を見る限り、平均寿命が 80歳以下の国に、介護は存在していません。
つまり、多くの方が認知症や介護の必要性が生じる前に寿命を迎えており、
介護の必要がないということです。
日本の認知症有病率というデータ(75歳〜79歳では 13.6%、80歳〜84歳は 21.8%、85歳〜90歳は 41.4% : 筑波大学調査)があります。
高齢になるほど高くなることでも明確です。
アジアの介護事情のポイント は以下の通りです。
① 東南アジアを一括りとして日本と比較してはいけない(平均寿命が違う)。
② 平均寿命が低ければ介護が必要な状況は生まれにくい。
③ 介護の概念は、介護が必要な人が増加しなければ想像しにくい。
介護の不要なベトナムですが、日本が導入している技能実習制度により、
日本で介護の仕事に従事するするベトナム人が増えています。
ベトナムのハノイ市の老人ホームでは月 750万ドン(約4万4000円)です。
ベトナムの多くの高齢者の年金額は 400万ドン〜500万ドン(約2万3480〜2万9350円)で、
若い子どもたちは、600万~700万ドン(約3万5220〜4万1090円)の少ない収入で家族を養っているため、
富裕層しか利用できず、1/4 ほどは空室だということです。
近年、日本の高齢者が、タイやマレーシア、フィリピンなどに移住して、介護を受けようという事例も出てきました。
将来的には、現役時代は欧米やアジアの先進国で働き、
老後は、ホスピタリティと自然も多く、物価も安い東南アジアで生活するという人たちが増えるかもしれません。
・欧米の介護事情
諸外国における介護政策について見てみましょう。
スウェーデン
福祉大国と呼ばれるスウェーデンは、国が積極的に介護サービスを提供しています。
その歴史は1970年代まで遡り、早期から高齢者福祉が実践されてきたことがわかります。
国が計画的に介護政策を実行しており、特に地方自治体であるコミューンを中心に、
在宅介護のサービスや訪問ケアサービスが充実しています。
このため、ホームヘルパーの公的地位は安定し、多くの高齢者が住み慣れた自宅で生き生きと生活しています。
ドイツ
高齢化率が2割を超えているドイツは、少子化の進行もあり、日本と似たような厳しい状況下に置かれています。
そのため世界で初めて社会保険の仕組みを作り出し、介護保険を導入した国でもあります。
ドイツの介護制度は「在宅介護優先」の方針がとられており、
日本で転換を目指している「地域包括ケアシステム」の手本とも言われています。
イギリス
イギリスは公的年金の支給額が低いため、それを是正するための年金の繰下げ制度が設けられています。
国民ひとりひとりが元気に働くことを支援し、老後のための経済的な基盤づくりをサポートしています。
ここでもやはり在宅ケアを重視する対策が進んでおり、民間会社が地方自治体から委託されてサービスを提供することによって、
ホームヘルプやデイセンター、ソーシャルワーク、配食サービス、福祉用具の提供、移送サービス、リフォームなどといった多様なサービスの質を高めています。
デンマーク
寝たきり患者がほとんどいないとされる北欧の小国デンマーク。
すでに高齢化率が15%を超えていますが、高齢者福祉は非常に発達しており、高齢化対策のモデル国として話題に挙がっています。
デンマークでは特別養護老人ホームのような『プライエム』が多数存在していましたが、
現在はこれらの新規建設を禁止し、在宅介護を重視する方向に転換しています。
デンマークでは、訪問介護スタッフが必要なときに何度でも無料で訪問します。
高齢者の自己決定や今ある能力を活性化することを重要視しており、
また、市や病院が責任をもって適切な住居・治療を提供する義務が課されています。
アメリカ
アメリカは、高齢者の割合は10%を超える程度に留まっています。
しかし、ベビーブーム世代の高齢化が始まり、高齢化対策に関心が集まっています。
アメリカには日本の介護保険制度のような公的制度がないので、
民間の保険に加入している人など、一部の人が施設を利用している状況です。
また、低年収の人を対象に、食事や身体ケア、ハウスキーピングが受けられる「サポート付き住居」があります。
高齢者の多くが自宅に住み続けることを希望しているので、高齢者が住みやすい住宅の整備に向けて動き始めています。
世界の介護がこれから目指すもの
高齢化の進行レベルや財政状況によって異なりますが、おおむね諸外国においては次のような傾向になっています。
在宅ケアを中心とした介護制度
今後は介護施設を削減し、在宅ケアを推進または継続してゆく方針を打ち出している国が主流です。
老後は施設に頼りきりになるのではなく、自宅で自分らしく生き生き生活することを目標とします。
そのためには高齢者向けの住宅を整備し、そこで訪問介護サービスを展開するといった制度が必要になるでしょう。
在宅介護を支援する国の制度の充実とともに、介護の負担が女性だけに偏らないための工夫が必要なようです。
介護予防への取り組み
介護職員がすべてのことを支援してしまうと、要介護度が進むと言われています。
これからは過剰な介護サービスを改め、高齢者の今ある能力を生かすように行動を促すことが大切です。
そのために役立つのが介護予防の取り組みです。
介護予防は症状の悪化を防いだり、回復を目指すことができ、自立支援を促すためにとても有効です。
介護予防は施設に入居している高齢者が在宅を目指すためにも、非常に有意義な対策となるでしょう。
〇 「福祉国家」デンマーク
デンマークは、「ゆりかごから墓地まで」を国が面倒を見てくれる=福祉国家として有名です。
医療費無料、出産費無料、教育費無料、充実した高齢者サービスなど、社会福祉がとても充実しています。
その一方で、税金は、消費税率25%、租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率約70%(日本は約47%)と、かなりの高納税国であり、だからこそこの充実した社会福祉制度が構築できています。
デンマークでは、生ビール1杯は、約1,000円(税込)です。
また、デンマークの国民性は、「自己決定・自己責任の国」といえます。
デンマークの景観は、とてもおしゃれです。
例えば海岸には、日本では必ずある危険防止の柵はありません。
スッキリと景観が保たれています。
つまり、危険な場所に自ら近づき事故があったとしてもそれは自分で決めて行動したことで自己責任だと言う考え方です。
日本では、海岸で事故があった場合、なぜそこに柵をつけていなかったんだと行政に損害賠償を求める事例も多々あります。
(2005年4月に千葉県の動物園で、当時1歳7カ月の男児がベンチの内側に転倒し、枯れ枝が頭に突き刺さって死亡した事故で、両親が千葉市に約5160万円の損害賠償を求めた訴訟がありました)
日本とデンマークの介護観の違いにも明確に現れます。
デンマークでは介護が必要な状況になるのも「自己決定・自己責任」です。
デンマークは選挙の参加率がほぼ100%です。
日本のように30%〜40%ということはあり得ません。
デンマークの高い税率も自分達が選挙に参加して決めたという認識があります。
そのため、介護が必要な人が増加すれば税率を上げざるを得ないことも理解していますし、そもそも老後を子供に面倒見てもらう文化もありません。
自己責任ですから、自分は自分、子どもは子どもです。
「介護サービスを受けると決めたのは自分」だから、トラブルもほとんどありません。
介護が必要な状況にならないよう努力することは自分のためでもあり、国の税金を引き上げないことにもつながります。
介護が必要な状況になり、介護サービスを受けることも自分が決めることであり、自分の責任です。
そのため、介護サービスを受ける上でのトラブルはほとんどありません。
それは、そのサービスを受けると決めたのは自分だからです。
ちなみに、デンマークの移乗介助は基本リフトです。これは法律で決まっています。
もし日本のように時間がないからリフトを使わずに対応し、うっかり腰を痛めてしまった場合、労災は使用できません。
リフトを使用しなかったのは自己責任だからです。
幸福に対する考え方も日本とデンマークは大きく違います。
毎年、世界の番付が発表されますが、大抵、デンマークは2位(1位はいつもフィンランド)。
日本は60位以下です。
この違いには「ヒュッゲ(デンマーク語で小さな幸せ)」という言葉に現れています。
どんな時に幸せを感じるか?
の問いに対してデンマークでは、ほっとくつろげる心地よい時間、またはそんな時間を作り出すことによって自然と生まれる充実感を幸せと感じるそうです。
日本では、高い給料を得て、高級ブランド品、高い車にのって高い地位を得て、それでも満たされないなんてことを聞きます。
幸福度は自分で決めるものです。
日本が介護に手厚くすることで社会保障費が破綻しかけていることを海外は知っています。
海外では、そうならないように自分達はどうすればいいか?という視点で日本を見ています。
〇 日本の介護の現状と課題
では、日本の介護政策はどのように進んでいるのでしょうか。
少子高齢化社会
高齢化と並行して問題視されているのが少子化対策です。
少子化の進行によって若い世代が減少すると、財源確保の問題も併発してきます。
こうした高齢層を支える世代を育てるためにも、国と民間が一丸となって、子育て環境を整備する動きが必要になっています。
介護に対する考え方
日本の介護施設は世界的に見ても手厚く、介護職員が率先してサービスを行うことが当たり前になっています。
しかし、一から十まで介護者が手を差し伸べてしまうと、利用者の要介護度を進行させ、寝たきり患者を増やしてしまうというデータもあります。
諸外国での介護職員の基本姿勢は 「セルフヘルプ(self help)」
つまり「自らの自助努力を助ける」という意味です。
利用者自身ができることは自分の力で行うことを重んじており、介護者ではなくあくまでも要介護者が主体とされています。
最近では日本でも、高齢者ができるだけ自立して暮らせるように支援をする流れに変わってきており、介護予防も注目されています。
延命治療と寝たきり
宗教的な背景もあり、諸外国においては無理な延命をせずに自然な死を迎えることが、高齢者の尊厳を保つという考え方が一般的です。
そのため、高齢期に胃ろうによる人工栄養で延命を図ることはほとんどありません。
こうした背景が、日本と諸外国における寝たきり患者の割合に、大きな差異を生んでいると言えるでしょう。
延命治療の是非は簡単に結論が出る問題ではありませんが、終末期について話し合う機会を設けることは大切なことと言えます。
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