アルツハイマー病新薬 「九期一®」 が、中国で条件付き製造販売を承認されました

Xinhua Net によると、

中国国家薬品監督管理局の2日付の発表で、

中国科学院上海薬物研究所と中国海洋大学(Ocean University of China)、

上海緑谷製薬

開発・製造した アルツハイマー病新薬 「九期一®」 を条件付きで承認したと発表した。

軽・中度の患者が対象で、認知機能の改善効果があり、

年内に中国で販売を始める計画をしている。

アルツハイマー病新薬 「九期一®」(ナトリウム・オリゴマニュラレート、GV-971)は、

中国科学院上海薬物研究所の耿美玉(Gen Meiyu)研究員率いる研究チームが、22年にわたり研究を行ってきた。

合計 1,199人の被験者が、
フェーズ 1 、2 、およびフェーズ 3 の臨床試験研究に参加し、
うちヒューズ 3 臨床試験は
上海交通大学医学院附属精神衛生センターと北京協和医院が主導し、
全国34カ所の三級甲等病院(最高レベルの大病院)で実施。

合計 818人の患者の服薬経過を観察した。

臨床試験全体の管理は、
世界的に有名な新薬研究開発サービス請負企業 IQVIAが担当した。

36週間の ヒューズ 3 臨床試験の結果、
同薬は軽度から中等度のアルツハイマー病患者の認知機能障害を
有意に改善することが示された。

プラセボ群(無治療群)との比較で
主要治療効果指標の認知機能は大幅に改善が見られ、
評価尺度は 2.54ポイント(P<0.0001)改善した。
有害事象発生率はプラセボ群と同等だった。

 

新華社通信

 

日本文参考:ライブドアニュース

 


我々、認知機能改善サポート日本協会としての考察をお伝えしたいと思います。

耿美玉(Gen Meiyu)研究員率いる研究チームは、
腸内細菌叢の変化が末梢血中のフェニルアラニンとイソロイシンの蓄積を引き起こし、
神経炎症の発生と最終的に認知機能障害を引き起こすという仮説をもとに、
脳腸軸を標的とする、今回の アルツハイマー病新薬 「九期一」を研究してきたと拝察します。

脳腸軸のメカニズムを理解するには、腸内細菌叢と中枢神経系との関連を知る必要があります。


脳腸相関(brain-gut interaction)

脳と腸は自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介して密に関連していることが知られています。
この双方向的な関連を“脳腸相関(brain-gut interaction)”
または“脳腸軸(brain-gut axis)”と言います。
つまり、消化管の情報は神経系を介して大脳に伝わり、
腹痛・腹部不快感とともに、抑うつや不安などの情動変化も引き起こします。
そして、これらの情動変化が
副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF: corticotrophin releasing factor)や
自律神経を介して消化管へ伝達され、
さらに消化管の運動異常を悪化させることになるのです。

ストレスによって消化管機能障害を呈する過敏性腸症候群では、
ストレス刺激によって誘発された CRF は
視床下部や脳幹にある CRF type 2 受容体を介して
胃・十二指腸の運動を抑制します。

一方、CRF はCRF type 1受容体を介して結腸運動亢進を起します。
逆に、消化管内腔の粘膜細胞に刺激が加わると、
この信号は迷走神経や脊髄求心神経を介して延髄や視床、皮質へ伝えられ、
いわゆる“内臓知覚”を形成します。

このように脳と腸は密接に関連していますが、
最近では、腸内常在菌と中枢神経機能との関連が注目されており、
腸内細菌と脳、腸との相互作用に着目した
“brain-gut-microbiota axis: 脳-腸-腸内細菌軸”という概念も提唱されています。
(参考:公益財団法人 腸内細菌学会


最近の研究では、体の重要な部分として、
腸内細菌叢の役割は消化管に限定されず、
脳の機能と行動にも大きな影響を与えることが示されています。

腸内細菌叢は、脳の発達、ストレス反応、不安、抑うつ、認知機能などの
中枢神経系の活動の調節に関与しています。

アルツハイマー研究の分野では、徐々に確認された「衛生仮説」は、
ADが腸に由来する可能性があり、
腸内細菌叢の不均衡に密接に関係しているということです。

 

アルツハイマー病新薬 「九期一®」は、非常に単純にいえば、

オリゴ糖とナトリウムの化合物です。

ここに、興味深い論文を紹介します。

 

アルギン酸オリゴ糖ナトリウム塩の血圧上昇抑制作用

日本栄養食糧学会誌 第54巻 第5号297-303(2001)
アルギン酸オリゴ糖ナトリウム塩投与がラット血清脂質・電解質および尿中電解質に及ぼす影響
※ 上記 リンク先に、論文(PDF)を紹介
小川 博,梶本 禮義,樋浦 望,茶木 貴光
(2001年3月21日 受付;2001年7月2日 受理)

アルギン酸多糖ナトリウム塩のような水溶性食物維は生活習慣病予防因子として位置づけられ,
最近,肥満,高脂血症,糖尿病 予防等における有効性の解明が進んでいる。
そして有効な生理作用発現機構の一つとして膨潤性,高粘性,イオン包接交換性等の難消化性多糖類の特性が考えられている。
また一方では,難消化性多糖類の一部が大腸において腸細菌により資化され生成したオリゴ糖や短鎖脂肪酸等 代謝物が有効作用を発揮することも明らかになりつつある。

食品素材としての広範にわたる応用を考えた場合,
生活習慣病予防に有効といった水溶性食物繊維の有用性をできうる限り損なうことなく,
溶解性や粘性を改善することが重要となる。
今回われわれは海洋性オリゴ糖に着目し,アルギン酸多糖ナトリウム塩を
酵素分解することにより得られたNa-AOの有効作用について検討を進めた。

現在のところapoA-I HDLの減少理由は明確ではないが,最近
Vu-Dac et al.はラットの場合,脂質代謝改善であるフィブラート系投与により
Peroxisomeproliferator―activatedreceptorα(PPARα)の活性化を行うと
apoA-1遺伝子の転写が抑制されapoA-1の減少につながることを報告している。

したがって,今回Na-AO投与により,吸収されたNa-AOの一部が,
または腸での発酵等による代謝物が,PPARα 活性化作用を発現し
apoA-1が減少した可能性が示唆され,
作用機構の点から非常に興味深いと考える。

しかし,Na-AOO.69/rat/day投与の場合のみ
血清TCの低下が認められることから,
ヒトに外挿した場合かなりの必要量となり,今後Na-AOが
脂質代謝に及ぼす影響を詳細に検討することが必要である。

血清電解質・糖そして血液項目においては
Na-AO投与による大きな変動は認められず
日動範囲内の影響であると考えられる。

尿においては,いずれの測定日においても
ナトリウム排泄量がNa-AO投与量に依存して高値を示していることから,
ナトリウム排泄量上昇は試料中のナトリウムに由来するものと考えられる。

しかし,同時にNa-AOによるナトリウム排泄促進作用の可能性も否定できないことから,
今後摂取ナトリウムを一致させたさらなる実験が必要と考える。

いずれにせよ,試料より血中に吸収されたナトリウムは血清ナトリウム量に影響を与えることなく
速やかに尿中に排泄されることが明らかとなった。
また,ナトリウム排泄量上昇とは逆にカリウム排泄量の減少ないし減少傾向が認められたが,
顕著な差でなく,32日目ではまったく差が認められないことから日動の範囲と考えられる。
加えて,カルシウムの場合も同様に排泄量減少傾向が認められた。

しかし,Breslau et al.は食塩負荷によりナトリウム過剰摂取とするとむしろ尿中カルシウム排泄が増加し,血清Ca濃度低下に作用すると報告していることから,
Na-AO投与は尿中カルシウム排泄に対し,食塩負荷の場合と異なった影響を示すことが明らかとなった。

以上,Na―AO投与,とくに0.6g/rat/day投与は
コレステロール無添加食において,
apoA-I HDL減少作用を中心とする血清脂質減少作用を示し,
これまでの報告とは異なった新規な作用機構の可能性が考えられた。

オリゴ糖に関しては,整腸作用や虫歯抑制作用がよく知られており,
最近ではミネラル吸収促進作用が報告されているが,
脂質代謝改善作用についての報告はほとんどみられない。

また,陸上生物から産生されるオリゴ糖に関する報告は多いが,
海洋生物から産生されるオリゴ糖に関する報告は,その生産方法が困難なこともあり未だ多くない。

今後,Na-AOの有効な生理作用が明確になるとともに生活習慣病予防に役立つ食品素材として広範囲の応用が進められることを期待したい。


上記にあるように、すでに20年ほど以前より、オリゴ糖やナトリウムが、生活習慣病予防の役立つ生理作用を引き起こすことは、日本の医学界でも研究されてきました。

つまり、人体にとっても、悪い影響を及ぼすものではないということは自明です。

中国科学院上海薬物研究所の耿美玉研究員の研究結果は、軽度から中等度のアルツハイマー病患者の認知機能障害を有意に改善すると示していますが、認知機能障害で本人も家族も、周囲の者も困ること、悩むことは、重度の認知機能障害にあります。

中核症状から周辺症状(BPSD)が顕著になり、暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁などが表出することです。

下記のアルツハイマーの薬においても、これらを抑制することができず、2018年には、フランスで、これらの抗認知症薬の効果が不十分として、これらの4種類を保険適用外にしました。

今回のアルツハイマー病新薬は、これら4種類の抗認知症薬が、BPSDを逆に促進してしまった事実のような副作用が起きることは少ないでしょう。

そういった意味で、軽度から中等度のアルツハイマー病患者に、害悪を与える可能性は低いと考えられます。

が、アルツハイマーの症状を抑制するといった点では、結果を出すことは難しいのではないかと予測いたします。

WHOの保健大憲章では「健康とは,完全な肉体的,精神的および社会的に良好な状態にあること」と広義に理想像を考えています。

私たち、認知機能改善サポート日本協会は、人体を生理学的視点で見ることで、本来あるべき人間の生理的機能の正常化の回復に向かうことを目指しています。

つまり健康を回復するための基本的なルール=康復医学の学術研究を基に、生命を維持する血流を各個人に合った正しい機能作用に回復させることこそが、健康を取り戻すことであり、この新薬では、認知機能障害の改善には十分な結果をもたらすことは困難であると考えます。

 

 


アルツハイマー病新薬

 

現在の臨床現場では、アルツハイマーの薬として、

ドネぺジル(商品名アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ)、メマンチン(メマリー)の4種類があります。

アルツハイマーの進行度やBPSD(周辺症状)に応じて薬の使い方が異なり、
二種類の薬の併用や、他の脳機能改善薬、漢方との組み合わせなど選択肢は多様です。

進行度に応じた使い分けは以下の通りです。
(1)軽度~高度‥ドネぺジル
(2)軽度~中等度‥ガランタミンとリバスチグミン(貼付剤)
(3)中等度~高度‥メマンチン

BPSDの合併例には、ドネペジル以外を選択し、少量の向精神薬を使用するとともに、漢方も組み合わせるのが、臨床の主流です。

アルツハイマー病の治療方法について、
研究された論文を参考としてご紹介します。

日本老年医学会雑誌 49巻 4号(2012:7)
老年医学の展望
アルツハイマー病の治療:現状と将来
田平 武

アルツハイマー病(AD)の治療薬としてガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが
我が国で承認され,これまで使用されてきたドネペジルに加え
4剤となり,治療の選択肢が広がった.
ドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンは
いずれもコリンエステラーゼ阻害作用により脳のアセチルコリンを高め,
AD の中核症状と ADL の改善効果がある.
それぞれ作用の特徴がありどのような症例にどの薬剤を選択すべきかについて
少しずつ経験が積み重ねられつつある.
また,メマンチンは NMDA 受容体拮抗作用があり,
コリンエステラーゼ阻害薬のどれかと併用することもできる.
しかしこれらの薬は病気の本態に効く薬ではないので,
その効果は限られており,病気は徐々に進行する.
病気の本態に効く薬の開発はアミロイドを標的として開発が進められており,
アミロイド抗体の一部は本年 phase III の結果が発表され,
成功すれば初の disease modifying drug となる.
しかし,AN-1792 ワクチンおよび抗体療法の phase II の治験結果および
その他の治験結果をみる限り,
認知症発症後の治療開始ではもはや遅いのではないかといわれるようになった.
即ちバイオマーカーの研究が進み,
脳のアミロイド蓄積は認知症を発症する 20年も前から始まっていることが分かった.
この段階を preclinical AD と診断し,preclinical AD での治験が始まろうとしている.

 


 

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