高齢者の運転免許 について考えてみたいと思います。

〇 日本における 高齢者の運転免許 保有者の交通事故件数

高齢者の運転による交通事故が認知症の課題と共に問題になっています。

高齢者の運転による幼い子どもたちの命を奪う痛ましい事故が報道されますが、

ここ最近では、熊本県で、83歳の原付バイクが一時停止を守らず、79歳のバイクと衝突し、死亡した事故が起きました。

翌日には、静岡県で軽自動車を運転する70代女性が、歩行者の70代夫婦をはねた上、ショッピングモールのドアに衝突した事故がありました。

日本の警察庁の発表では、2021年の免許保有者(原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者)10万人当たりの交通事故件数は、平均で 347.1件。

高齢者の運転免許 について

16~19歳は、1043.6件と群を抜いて多く、20~24歳は、605.7件と若者の事故率の方が高くなっています。

そして、85歳以上の524.4件が多くなっています。

35歳~69歳はほぼ横ばいですが、70~74歳から事故率が上昇しているのがわかります。

75~79歳は390.7件。

80~84歳429.8件。

85歳以上524.4件。

高齢者の年齢が上がるとともに増加しています。

国立山梨大学の伊藤安海教授(交通科学)は「高齢者の運転能力は加齢に伴う目の衰えなどにより、若い人に比べて個人差が出やすい」と指摘しています。

「事故を予防するためにも『限定免許』を導入し、限定免許になった時点で返納後の生活設計もするべきだ」と提案しています。


〇 諸外国における 高齢者の運転免許 制度

日本国内においては、ここ数年で免許返納の流れが加速しています。

日本では、免許返納後に運転経歴証明書を取得すると、さまざまな特典を利用できることで免許返納を促しています。

それでは、諸外国ではどのように免許返納を促しているのでしょうか。

海外の高齢者の交通事故を防ぐ取り組み、免許返納を促す取り組みについて、国立国会図書館「諸外国における高齢者の運転免許制度」を参考に解説します。(参考サイト:日本語)

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10983260_po_0981.pdf?contentNo=1

 

◆ 運転免許の有効期間を短くする

諸外国では、高齢運転者の免許有効期間を短く設定し、こまめな免許更新によって交通事故を防ぐ取り組みが行われています。

この取り組みは、アメリカの18の州で実施されています。

EUでは19ヵ国で実施されています(2013年時点)。

また、高齢になるにつれて有効期間が段階的に短くなっていく事例もあります。

※ EU加盟 27 カ国のうち 19 カ国で短縮されているが、2 か国(スウェーデン及びルーマニア)においては年齢にかかわらず有効期間は 10 年間。
6 か国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、フランス、ドイツ及びポーランド)では有効期間が無期限。

 

◆ 対面での更新手続き

諸外国では、オンラインや郵送で免許更新手続きができる国があります。

(英国では、高齢運転者であってもオンラインによる更新が可能となっています。)

しかし、アメリカの16の州とコロンビア特別区では、高齢者に限り、オンライン手続きを認めず、免許更新を対面で行っています。

 

◆ 医師による検査を行う

医師による検査で承認を得られた高齢者だけが免許を更新できる取り組みが行われています。
この取り組みが行われているのは、アメリカではコロンビア特別区、欧州ではチェコやデンマークなどの10ヵ国以上です(2013年時点)。

 

◆ 実車試験

高齢者の免許更新に、実車による試験を課している国もあります。

一定の年齢を超えている全員に課す場合と医師によって必要と判断された場合に課す2通りの事例があります。

アメリカのイリノイ州では75歳以上の高齢運転者に一律で実車試験が実施されています。

オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも85歳以上の免許保持者に実施されています。

日本では70歳以上に講習を義務付けています。2022年5月13日からは免許証更新の際に75歳以上で、過去3年間に一定の違反歴がある場合は、高齢者講習と認知機能検査に加え、実車を使った「運転技能検査」の受検が必要となりました。

「運転技能検査」は、免許の有効期間内であれば、合格するまで繰り返し受検できますが、有効期間までに合格しなければ、「認知機能検査」に進むことができず、免許を更新できません。

 

◆ 限定免許

地域や速度などを限定して免許更新を認める場合もあります。

免許更新の際に実車試験を求められ、その実車試験を合格できない場合に地域や速度、時間帯などを限定して免許更新を認めるという取り組みです。

アメリカのアイオワ州では、年齢に関わらず運転に懸念がある場合は実車試験が課され、合格できなければ限定免許へ切り替えを提示されます。

また、オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも、85歳以上の免許更新で実車試験を課されている人が受験をしない場合に、走行できる地域を限定した免許が交付されます。

ドイツやスイスが導入している限定免許は、運転は昼間に限り、場所も制限しています。

日本では、2022年5月13日より、自動ブレーキや踏み間違い時の加速抑制装置が搭載された安全運転サポート車(サポカー)に限定して運転できる「サポカー限定免許」がスタートしました。

 

◆ 医師などによる情報提供

周りの人が高齢者の運転に対して不安を覚えた場合に、運転免許当局に情報提供できる仕組みがあります。

アメリカのオレゴン州では、医師に対して、運転に重大な支障がある場合は情報提供を義務付けられています。そして、情報提供後、すぐに免許が取り消しされます。

また、イギリスでも医師の運転免許当局への情報提供が認められています。

 

◆ 講習の実施

カナダのオンタリオ州では、高齢運転者は免許更新の際に講習を受けなければなりません。

この講習は約90分間で、新しい交通規則の説明、老化が運転に及ぼす影響の解説、視力検査などが行われます。

アメリカの多くの州とコロンビア特別区では、高齢者が講習を受けることで保険料が安くなる仕組みを導入しています。


〇 各国の高齢者運転への取り組み

日本では、高齢ドライバーによる事故を防ぐべく、高齢者に免許返納を促す政策や運転講習などがあります。

海外の高齢ドライバーに関する制度には、どんなものがあるのでしょうか?

各国の政策や高齢ドライバー事情など、詳しく紹介します。

高齢者の運転免許 海外

 

◆ 中国

中国は 70歳までの定年制 を採用しています。

60歳を超えると毎年身体検査を受けなくてはならず、厳しい条件をクリアしなければ免許を保持できません。

70歳になると運転免許が取り消されます。

 

◆ 韓国

高齢化が進んでいる韓国では、65歳以上のドライバーによる事故が毎月2,000件を超え、日本と同じように社会問題へと発展しています。

韓国道路交通公団の資料によると、過去10年間で高齢者による事故が2.6倍に急増しています。そこで、韓国では免許を自主返納した高齢者を優遇する仕組みが広がっています。

釜山では、免許を自主返納した高齢者に「高齢者交通カード」を交付しています。このカードを持っていると、バスなど公共交通機関の乗車、医療機関やホテルなどの利用で優待が受けられます。

韓国でも高齢ドライバーの危険運転に頭を悩ませており、免許の更新期間を5年から3年に短縮する案も出ているようです。

 

◆ アメリカ

米国保険業界が設立した非営利団体『The Insurance Institute for Highway Safety(米国道路安全保険協会)』の調査によると、30~59歳よりも70歳以上の高齢ドライバーが事故を起こす確率は高くなっているものの、衝突相手や歩行者など負傷者を出す確率は30~59歳よりも低いという結果が出ています。

日本には、アメリカのように道路状況や歩行者の様子まで細かく調査したものはありません。
アメリカの交通事故への意識の高さがうかがえます。

この調査によると、一概に高齢者の運転だけが危険だとは言えないようです。

アメリカ自動車協会が運営しているウェブサイト『SeniorDriving.AAA.com』では、「体調管理とドライビングスキルを保って末永く安全運転を続けてもらうための情報の提供」をコンセプトに、高齢ドライバーへの安全運転啓蒙活動を行っています。

・ ドライビングに必要な力を維持するためのエクササイズ紹介
・ 自動車とドライバーとの適合度チェック
・ 運転力向上のためのレッスン

『SeniorDriving.AAA.com』の特徴は、加齢による衰えを肯定的に捉えている点です。

年をとれば、運転技術が衰えるのはあたりまえ。しかし、そこで運転することを諦めるのではなく、どのようにして安全運転をするかを考え、改善策を伝えているのです。

NHTSA’sNational Center for Statistics and Analysis 2004に掲載されている高齢ドライバーの死亡事故の統計データによると、

アメリカでは70~80歳のドライバーの飲酒運転率は極端に低いようです。

SeniorDriving.AAA.comなどの活動が、運転に対する真摯な姿勢をはぐくんでいるのかもしれません。

 

◆ イギリス

イギリスでは、運転免許は、まずは70歳まで有効です。病気や怪我などの理由で運転できなくなってしまった場合は、70歳を待たずに自己申告で返納することができます。

なお、70歳の時点で健康かつ安全に車を運転できると申告した場合は、3年間有効の免許証を無料で発行されます。

その後は3年ごとに自己申告をして免許証を受け取ることになります。

運転免許の保持に影響する病気は、がんや摂食障害、感染病など多岐にわたります。

高齢者が安全に運転できるよう十分配慮がされているイギリスでは、近年女性の自動車利用が増加しています。

また、運輸省が運営している『OLDER DRIVERS』では、「高齢者のドライバーは経験も豊富で自信と思いやりもある」をコンセプトにしています。

シニアドライバーがより長く快適に運転できるようになるためのフォーラムやイベントを主宰し、身体的な検査、技能評価、運転の講習などを実施し、情報の拡散などに努めています。

 

◆ ドイツ

ドイツでは、シニアドライバーの安全運転を広めるため、画期的な取り組みを行っています。

Allgemeiner Deutscher Automobil Club e.V.(全ドイツ自動車クラブ)、略してADACというロードサービス組織があります。

「生涯安全運転を」という目標を掲げ、シニアドライバーの支援を積極的に行っています。

・ 高齢者用安全運転パンフレットの作成
・ シニアドライバーに適したクルマの比較テスト
・ シニアドライバーのための運転適性テスト
・ 運転指導
・ 相談窓口の開設

ドイツでも高齢ドライバーに対する否定的な意見は多くあります。

が、ADACのおかげで高齢になっても安全にドライブを楽しんでいるドライバーも増えたようです。


〇 運転免許の放棄率

日本人では高齢になると自分から免許を返納する人も増えてきましたが、海外はどうでしょうか。

「証拠のある話 常に検証可能なデータを求める文化に向かって」というサイトによると、日本の加齢に伴う運転免許の放棄率はアメリカ・イギリスと比べてもかなり多く、特異な結果として紹介されていました。

高齢者運転免許放棄率 アメリカ・イギリスと比較して

70~74歳までの男性の放棄率は日本人が5%、イギリス人は3%、アメリカ人は0%。

85~90歳までの放棄率は日本人が30%、イギリス人は20%、アメリカ人は15%です。

 

日本は他国と比べても、加齢に伴う免許の放棄率が高くなっていますが、これは日本人の遠慮深い性格が表れているとも言えるでしょう。

逆に、アメリカは車社会と言うだけあって、高齢者でも車が必要になる機会が多いため、放棄する人はほとんどいません。

しかし女性の場合、男性とは調査結果が大きく異なります。

70~74歳の放棄率は日本人で2%、イギリス人が5%、アメリカ人が4%。

また、75歳~79歳の結果をのぞき、すべての年代で、日本人女性の放棄率が圧倒的に少ない結果になっていました。

この年齢層で自動車を運転する日本人女性が少ないことが結果に反映されているのかもしれません。

 

国民生活センターのWeb誌『国民生活』2016年11月号に掲載された「超高齢化社会と自動車交通」という記事によると、「自分の運転テクニックなら十分に危険が回避できるか」という質問に「回避できる」と答えたのは、30代は10%、50代は18%、75歳以上では53%でした。

加齢によって運転能力は衰えていくのに、運転スキルへの自信は減ることがない。それが日本の高齢者による事故の多さに繋がっているのかもしれません。

この記事を寄稿した立正大学心理学部教授の所正文氏によると、欧州の先進国では、日本と比べて免許の自主返納を促す仕組みが整っているようです。

そのため、社会全体が高齢ドライバーに対して客観的な目を向け、厳しい身体検査などを課しているため、自分から免許を返納する高齢者が多いと言います。

今後日本でもこういった免許返納を促すような施策や制度が出てくると思いますが、それと並行して返納後の生活を担保するような受け皿の提供も重要になってくると思います。

訪問サービスや公共移動インフラの拡充などが鍵になりそうです。


〇 サポカー限定免許、普及せず

サポカー限定免許は、「安全運転サポート車等限定条件付免許」の通称で、2022年5月13日からスタートした運転免許の一種です。

「AT限定免許」と同様に、運転できる車種が限られる点が特徴で、一定の安全運転支援装置を備えたクルマ(サポカー)のみ運転可能となります。

NHKによると、富山県、茨城県などの発表で、これまでにこの限定免許を取得した人が1人もいない事がわかりました。

全国でも、ことし6月末までに取得した人は、わずか5人にとどまっているということです。

 

埼玉県警による啓蒙ちらし
https://www.police.pref.saitama.lg.jp/documents/795/koutusoumukoureisyakoutuuannzennnews8.pdf

経済産業省では、2020年3月9日より、「サポカー補助金」申請を開始し、新たに安全運転支援装置を搭載した新車を購入(後付け装置も含む)した場合、2万円から10万円の補助をしました。(2021年11月29日をもって申請は終了)

サポカーは、「対歩行者衝突被害軽減ブレーキ」と「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」の2種類を搭載した自動車です。

①  衝突被害軽減ブレーキ(対車両、対歩行者)
車載レーダー等により前方の車両や歩行者を検知し、衝突の可能性がある場合には、運転者に対して警報し、さらに衝突の可能性が高い場合には、自動でブレーキが作動する機能

②  ペダル踏み間違い時加速抑制装置
発進時やごく低速での走行時にブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込んだ場合に、エンジン出力を抑える方法により、加速を抑制する機能
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/support_car.html

 

自動車メーカー各社は、すでに、こうした安全運転支援装置導入が進んでいます。

こうした機能を備えた自動車は、定価は数万円高くなりますが、これからはデフォルトで搭載の方向に向かっています。

また、自動車購入する場合、販売店による値引き等々は、各社の在庫状況や繁忙・閑散時期によって、営業マンとの駆け引きによって上下します。

果たして、このサポカー補助金が、本当に消費者の利益につながったのか疑問です。

また、AT(オートマ)車限定免許は、教習所や運転免許センターで新規取得の時より決められていますが、サポカー限定免許は、自ら運転に不安を感じる人が自主申請するという方法です。

車の買い替えという経済的負担と、自身が運転不安を公にすることで取得するという免許に切り替えるメリットは非常に低いといえそうです。

むしろ、自身の運転に不安を持つ方は、車に乗り続ける選択よりも、やはり、自主的に免許返納されていらっしゃるのではないでしょうか?


〇 運転免許返納による特典

運転免許返納の手続きについては、下記の警視庁の公式ウェブサイトをご高覧ください。
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/return_DL.html

運転免許を身分証明書代わりに利用している方も多いでしょう。

免許返納により、運転経歴証明書を交付しています。

これにより、運転免許と同様の公的身分証明書として利用できます。

また、免許返納による各都道府県自治体では、様々な特典を準備しています。

※ 参考 : 各種特典について(高齢運転者支援サイト)
https://www.zensiren.or.jp/kourei/return/relist.html

例えば、以下のような特典があります。

(ご自身のお住まいの各自治体に詳細を問い合わせてください)

・ 公共交通機関の割引

・ バス・電車の割引優遇制度

・ タクシー割引制度

・ 生活必需品等用品購入割引

・ 購入商品の輸送料金割引

・ 眼鏡・補聴器・電動車いすの購入資金補助

・ 乗らなくなった自動車の売却時

・ ギフト券・現金還元(企業により異なります)

・ ホテル・レストランの割引制度の利用特典

・ 各商店街で利用できる割引券

免許を返納して、これらの特典で新しいライフスタイルを楽しむ方が賢い生活かもしれませんね。


この記事は、毎月4日配信の当協会公式メルマガ ☆ DISAJP NEWS ☆ Vol.54 2022年9月4日配信号よりリンクしております。

DISA NEWS JAPAN のバックナンバーは こちら からご覧いただけます。

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